光ファイバーセンサーで世界最高の空間分解能を達成 “限界”とされてきた条件を克服し、6 mm間隔での温度分布測定に成功― 老朽化・被災インフラの高精度診断への応用に期待 ―
- プレスリリース
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部・李ひよん准教授(光波センシング研究室)と、横浜国立大学(神奈川県横浜市/学長 梅原出)大学院工学研究院/総合学術高等研究院・水野洋輔准教授らの研究チームは、光ファイバーに沿ってひずみ(伸び縮み)や温度の分布を測定する光ファイバーセンシング技術において、反射型計測方式※1として世界最高となる6 mmの空間分解能※2を達成しました。さらに、1 cm未満(7 mm)の区間に生じた温度変化を分布として検出することに世界で初めて成功しました。
本研究では、これまで実用が困難と考えられてきた条件下で生じる信号の乱れの原因を明らかにし、信号処理によってそれを抑制する新たな手法を導入することで、従来の限界を突破しました。本成果は、橋梁やトンネルなどの社会インフラの健全性を、これまで以上に細かく、かつ効率的に診断する技術としての応用が期待されます。
【芝浦工業大学】光ファイバーセンサーで世界最高の空間分解能を達成 “限界”とされてきた条件を克服し、6 mm間隔での温度分布測定に成功 ― 老朽化・被災インフラの高精度診断への応用に期待 ―
※本研究成果は、光通信・光センシング分野の国際的学術誌「Journal of Lightwave Technology」に掲載されました。
ポイント
・光ファイバーに沿ったひずみ・温度分布を測定する「ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)」において、世界最高となる6 mmの空間分解能を達成
・従来は実証されていなかった1 cm未満の温度変化の分布測定に世界で初めて成功
・これまで「限界」とされてきた条件下で生じる信号の乱れを解析し、信号処理によって抑制する手法を確立
・ 老朽化・被災インフラの高精度な健全性診断への応用に期待

図1. ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)による分布測定の原理:光ファイバーに入
射したレーザー光から生じるブリルアン散乱を利用し、ファイバー中の特定の位置だけを
選択して温度やひずみを測定する。レーザー光の周波数を制御することで、測定位置をファ
イバーに沿って移動させ、分布情報を取得することができる。
研究の背景
高度経済成長期に整備された橋梁やトンネルなどのインフラ施設は、老朽化が進んでおり、地震などの自然災害による被害も社会的な課題となっています。こうした構造物の安全性を継続的に監視する手法として、光ファイバーセンシングが注目されています。光ファイバーを構造物に沿って敷設することで、ひずみや温度の変化を長距離にわたって分布として測定できるためです。
このような分布測定には、光ファイバー中で生じるブリルアン散乱※3 と呼ばれる現象が利用されます。ブリルアン散乱では、散乱光の周波数がわずかに変化し、その変化量からひずみや温度を推定することができます。
中でも「ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)」※4 は、測定ファイバーの片端からの光入射のみで動作し、高い空間分解能と任意の位置を選択できる特長を兼ね備えた測定技術です。
これまでの課題
BOCDR では、レーザー光に周波数変調※5 を施すことで、測定位置を制御します。このとき、変調の速さ(変調周波数)を高くすると、より細かい空間分解能が得られることが知ら
れています。
しかし、ブリルアン散乱には固有の周波数幅(ブリルアン帯域幅)※6 があり、この帯域幅に近い、あるいはそれを超える変調周波数を用いると、測定信号に周期的な揺らぎが生じ、温度やひずみを正確に求めることが難しくなるという問題がありました。そのため、これまでの研究では、この領域での分布測定は実用的ではないと考えられ、十分な実証が行われていませんでした。
今後の展望
研究の概要
本研究ではまず、ブリルアン帯域幅近傍で生じる信号の乱れを詳細に調べ、その正体が変調周波数に起因する周期的な成分であることを明らかにしました。次に、これらの周期成分を信号処理によって選択的に抑制する手法を開発しました。
この手法を用いることで、従来は困難とされてきた高い変調周波数条件下でも、正確な分布測定が可能となりました。その結果、反射型のブリルアン計測として世界最高となる6 mmの空間分解能を達成し、7 mmの区間に生じた温度変化を分布として検出することに成功しました。

図2. 6 mmの空間分解能による温度分布測定の実証結果:光ファイバー中のごく短い区間(7 mm)に生じた温度変化を、分布として検出した測定結果。反射型計測方式として世界最高となる6 mmの空間分解能により、従来は区別できなかった1 cm未満の温度変化を明瞭に捉えることに成功した。
今後の展望
ミリメートル単位の空間分解能を実現できる本技術は、インフラ構造物の健全性診断にとどまらず、光導波路内部の状態監視や、構造物やロボットの形状を検出する「形状センシング」への応用も期待されます。将来的には、ロボットが周囲の状態を細かく感じ取るための「神経」のような役割を担う技術としての展開も見込まれます。
語句解説
※1 反射型計測方式
光ファイバーの片端から光を入射するだけで動作する測定方式です。測定用の光がファイバー内を往復するため、ファイバーの反対側に装置を設置する必要がありません。このため、設置の自由度が高く、万一ファイバーが途中で破断しても、破断点までは測定を継続できるという利点があります。
※2 空間分解能
分布型センサーにおいて、どれだけ細かい間隔で温度やひずみの違いを見分けられるかを示す性能指標です。例えば、空間分解能が10 mmであれば、1 cm間隔での変化を区別して測定できます。値が小さいほど、より詳細な分布情報を得ることができます。
※3 ブリルアン散乱
光ファイバーに光を入射すると、ファイバー内部に生じる微弱な振動(音の波)と光が相互作用し、光の周波数がわずかに変化した散乱光が発生します。この現象をブリルアン散乱と呼びます。この周波数の変化量は、ファイバーに加わる温度やひずみによって変化するため、分布測定に利用できます。
※4 ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)
ブリルアン散乱を用いて、光ファイバーに沿った温度やひずみの分布を測定する光ファイバーセンシング手法です。レーザー光に特殊な制御を施すことで、ファイバー中の任意の位置だけを選んで測定できることが特長です。また、反射型の計測方式で動作するため、測定ファイバーの片端からの光入射のみで測定が可能です。
※5 周波数変調
レーザーから出力される光の周波数を、時間とともに変化させる操作を周波数変調と呼びます。その変化の速さを示す指標が変調周波数です。BOCDRでは、変調周波数を高くすることで、より細かい空間分解能を得ることができますが、同時に信号が乱れやすくなるという課題もあります。
※6 ブリルアン帯域幅
ブリルアン散乱が本来もっている周波数の広がりを表す指標です。一般的な光ファイバーでは数十メガヘルツ程度で、この帯域幅に近い、またはそれを超える変調周波数を用いると、測定信号に周期的な乱れが生じやすくなります。これまで、この領域での分布測定は実用が難しいと考えられてきました。
研究助成
本研究の一部は、日本学術振興会 科研費(21H04555、22K14272)の助成を受けて実施されました。
論文情報
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程2年 菊地 啓太
芝浦工業大学大学院理工学研究科 准教授 李 ひよん
横浜国立大学大学院理工学府 修士課程1年 大畠 瑠己
東京大学大学院工学系研究科 研究員 野田 康平
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程2年 井上 諒
横浜国立大学大学院工学研究院/総合学術高等研究院 准教授 水野 洋輔
論文名:BOCDR achieving 6-mm spatial resolution at modulation frequencies close to Brillouin bandwidth
掲載誌:Journal of Lightwave Technology
DOI : 10.1109/JLT.2025.3640608
芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約10,000人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。